<技術講座>医療用LCDモニタ
医療用LCDモニタについて(前編)
Data Ray Corp.
古川 等日宏 先生
 
目次
前編(今回)
 T. LCDモニターに移行している背景
 U. 何故白黒LCDモニターの性能が白黒CRTに近くなったか?
後編(次回)
 V. LCD広角技術について
 W. 今後の課題

T.LCDモニターに移行している背景

 毎年米国で開催されるRSNA(Radiology Society of North America、北米放射線学会)総合技術展示会にLCDモニターが出展されたのは、 2000年のRSNAで米国の医療向けビデオグラフィックボードの専門メーカーが3M−Pixelの白黒LCDモニターを発表したのが最初であり、 これが医療市場におけるLCDモニターへの移行の発端になりました。 一般用も含めたデスプレイ全体の傾向をみると、大手PCデスプレイメーカーである、NEC、ソニー、SAMSUNG、LG等は2年前あたりから、 CRTデスプレーからLCDへの切り替えを打ち出していました。現在この移行はかなり進んでおり、NEC、ソニーなどは、 全機種のLCDへの切り替えがほぼ終了しつつあります。 大手のLCDへの移行はCRTデスプレーに使用される主要部品(偏向ヨーク、制御IC、高圧発生トランス、等)の入手難を引き起こしています。 これは、医療市場向けに白黒CRTデスプレイモニターを供給している製造メーカーにとって大きな問題となり、 常にその代替部品の調達に四苦八苦しなければならず、また部品単価も上がり製品価格への影響も免れない状況になってきております。 このような背景からも、医療市場向け白黒CRTモニターの専門製造メーカーの小企業であってもLCDへの切り替えを進めざる得なくなって来ております。
 カラーLCDは現在でも1部医療用に使用されていますが、胸部X-線画像はカラーでは輝度、コントラスト、色シフトの関係上 適しているとは言いがたいのが一般的意見であります。 X-線胸部画像、CT、MRI,血管造影等の医療向け白黒LCDモニターでは、コントラストと明るさで決まる表示画像濃度分解能が 読影精度を上げる意味で非常に重要な要素になります。 白黒LCDはカラーLCDパネルから単純にカラーフィルターを取り除きマスキングを施しただけと言うことになりますが、 こうすることにより非常に好ましい結果になります。カラーLCDに比較して白黒LCDは次のような利点があります。

 1. コントラストが1.5〜2倍増加する
 2. 輝度が単純に3倍になる。
 3. 階調性能を上げることが出来る。

 但しこの利点に反して、今までカラーLCDでは気が付かなかった問題が浮き上がってきました。 それは、白ムラ、ピクセル欠点、中間調での黒ムラ等の問題です。表示系のダイナミックレンジが飛躍的に改善した分、 カラーLCDでは気がつかなかった欠点が目立ってきたのです。そのため医療向け白黒LCDパネルの製造工程での判定基準は カラーの何倍も厳しくなってしまいました。当然のことながらその分、歩留まりが悪く結果的には単価がカラーLCDパネルの 数倍近くになっているのが現状です。現在3M−PixelLCDモニターは参照用ではなく読影用に使用されています。 さらに、1M、2M、5M、白黒LCDパネルが相次いでRSNA2002では発表されました。
 昨年までのRSNAでは、医療用モニターの専門メーカは必ずCRTモニターを展示していましたが、 今回のRSNAではCRTモニターの展示台数が極めて少なく、CRTモニターを1台も展示していないメーカーが目立ちました。

 以上のようにLCDへの移行背景は理解されたかと思いますが、まとめると次の2点です。

 1.大手PCモニター製造メーカーのCRTからLCDへの展開
 2.白黒LCDの性能が飛躍的に向上

U.何故白黒LCDモニターの性能が白黒CRTに近くなったか?

 カラーLCDから白黒LCDになったことにより改善される性能は、前記3点+1点(下記4.)になります。

 1. コントラストが1.5〜2倍増加する
 2. 輝度が単純に3倍になる
 3. 階調性能を上げることが出来る
 4. 原理的に解像度の劣化はありえない

 具体的にその数値を上げますとより明確になります。
 現状最も世界医療市場で普及している白黒3MピクセルLCDモニターの基本性能は以下のとおりです。

表1.白黒3MピクセルLCDモニターの基本性能
輝度 最大800cd/u
コントラスト 600:1Typical
階調性能 9.8Bit 〜11.5bit可能
解像度 1536x2048
信号 デジタルインターフェース

 一方、3Mピクセル白黒LCDモニターの基本性能でCRTと比較して劣る部分は、視野角に制限があるということです。 これは間接光で見ているためでありますが、もともとサーカステン上の画像も間接光で見ているため、 白黒LCDの画面上に表示された画像は読影する上ではCRTよりはるかに見やすい印象を与えることになります。 またCRTでは無かった欠点として下記の内容が上げられます。

 1.100%白のピクセル欠点がある
 2.白ムラがある
 3.色温度のバラツキがある(CRTは単材料蛍光体で逃げられる)
 4.中間調で黒ムラがある
上記1.2.4.は規格で制限し、3.はモニター供給側で対応しています。

 LCDが読影上CRTより優れている点は、コントラストが画像内容により大きく変化しないと言うことです。 これは、CRTは管面に1cm程度のガラスに蛍光体が塗布されているのでガラス面の表面反射が非常に大きいためです。 下記はCRTが画像の内容によってコントラストが変化することを示す実測例です。

表2.DR120(CRT)における白色画面上に黒色領域が占める割合とコントラスト比
Black Window Size,
inches - HxV
Black Window Luminance,
cd/m2
Black Window Area,
% of Total
Contrast Ratio
0.5 x 0.5 5.77 0.134945482 60.65857886
1 x 1 5.2 0.539781928 67.30769231
2 x 2 4.5 2.159127712 77.77777778
4 x 4 3.53 8.63651085 99.15014164
8 x 8 2.43 34.5460434 144.0329218
11.8 x 11.8 1.22 75.15923567 286.8852459

グラフ1.DR120のコントラスト特性

 以下は上記測定条件です。
Equipment Used:
* Standard PC Platform as signal source
* CRT Monitor Data-Ray DR120 p/n 800700, s/n E-1758
* Minolta LS-100 Spot Luminance Meter

Test Conditions
Monitor preset for:
1. All-black background luminance of 0.50 cd/m2
2. Full-white display luminance of 350 cd/m2
3. Display dimensions: 11.8 x 15.9 (185.26 sq. in. area)
4. The black square window was displayed at screen center.
5. LM-100 used at 1 meter distance to measure spot luminance.
(see graphic)
6. Best contrast ratio = 350 cd/m2 / 0.5 cd/m2 = 700

 上記実測データは、米国データレイ社製21”5M-Pixel CRTモニターを100%白バックグラウンドとし、 黒ウインドウのサイズを可変したときのコントラスト比を実測した場合を示しています。 基本的にはどのメーカーCRTモニターを使用しても原理的には同じ結果が得られることになります。
 CRTは前面ガラスの厚みが1cm程度あるため、CRT管面内部の表面反射により中央の黒ウィンドウに回り込み、 コントラストに著しい影響を与えます。つまり光ってはいけない黒部分に光が回りこみ黒で無くなるわけです。 これは、表示画像の平均輝度が変化するたびにコントラストが変化してダイナミックレンジが一定していないということになるので、 CRTでの読影は、安定した条件下での読影では無い事になります。
 一方LCDの場合は内部反射が全く無い訳ではありませんが、CRTと比較した場合には全くその影響は無視できますので、 CRTよりは遥かに安定した読影条件であると言うことが出来ます。

解像度につて:
 CRTは高圧パワーと映像信号増幅回路の回路的制限があり、5MCRTモニターではCRT寿命とビームスポットサイズの関係上、 300cd/m2〜400cd/m2が限界です。 その点LCDは最大800cd/m2はありますがバックライトの寿命を考慮した長期間利用では450cd/m2が一般的です。  ここでCRTとLCDの大きな解像度面での違いは、医療用5MCRTは2万時間程度で輝度の劣化は著しく、 同時にフォーカスも劣化するため、読影条件をー定にするのは極めて難しくなります。 CRTのフォーカス劣化により解像度がどの程度したらどの程度読影に影響があるかも未だ明確に検証されていないのが現状です。 その点LCDはピクセルがー個の素子(半導体)なので、輝度が劣化してもその解像度は全く変化しない利点があります。 輝度劣化はバックライトに依存するので、バックライトを交換すればまたもとの明るさと解像度を再現することが出来ます。 これなどは‘決定的相違点’ということが出来ます。

階調性能について:
 LCDは3個のピクセルで白黒1個のドットを構成するため、下記のような方法でその諧調特性を改善することが出来ます。 これも白黒LCDならではのなせる業であります。
 現状の医療用白黒パネルのドライバーモジュールは1ピクセル8Bit(256階調)で対応されています。 これを応用して下記のような方式が現在採用されて市場に出ております。
  1. サブピクセル方式
     256x3――>768−2(無効分)=766階調
  2. フレーム変調方式(FRC:Fram Rate Control)
     8Bit+2Bit(FRC)――> 1024−3(無効分)=1021階調
  3. a.+b.方式
     766x2(a.+1BitFRC)――>1531階調
     766x4(a.+2BitFRC)――>3062階調
  4. SHG方式(8Bitを7倍に拡張できる方式)
     7x256――>1786階調
     SHG方式+1Bit(FRC)――> 3500階調以上
     SHG方式+2Bit(FRC)――> 7000階調以上
 現在世界で最も諧調特性が得られるのはd.の方式となります。現在米国のデータレイ社はこのd.の方式を採用しています。
写真1は参考ですがそのモデルです。

 今回は、白黒LCDはCRTに比べていろいろな利点があることを説明しましたが、 次回は、LCD広角技術の概略比較とその特性はどのように読影用白黒LCDモニターに生かされるかおよび 今後の課題について述べる予定です。

写真1.PRECISON1

 写真1は米国データレイ社製20.1”白黒LCDモニターで、前記したd.の方式で世界初の階調拡張技術を搭載した製品です。
モデル名
PRECISON1
RSNA2002では同方式の3MLCDモニターを発表しました。

日本総代理店はスペクトラテック社
電話045-471-4893

米国データレイ社:www.data-ray.com
12300 Westminster Colorado80234 USA
Phone# 303-451-1300